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いつからか、正明は家に帰るたびにある女の子の話をする様になった。
名前は奈緒ちゃんと言うらしい。青と正明が通う小学校の同級生だった。
「今日奈緒ちゃんが消しゴムを貸してくれたんだ!」
正明は嬉しそうに青や叔母さんに話た。
青はただ黙ってそれを聞いているだけだった。
それでも正明は毎日奈緒ちゃんの話をして聞かせた。
ある日廊下で、青は奈緒ちゃんとすれ違った。
「こんにちは」
奈緒ちゃんが青に声をかけた。青は
「やあ」
と返事をした。
「正明の従兄弟でしょ?」
「そうだよ」
奈緒ちゃんの目はこげ茶色できらきらとしていた。
「君は奈緒ちゃんだね。なんだか君の名前をよく耳にしているよ」
「そうなの?」
奈緒ちゃんは小鳥の様にくすくすと笑った。
「あなたは不幸な青くんね」
「不幸?どうして?」
「お母さんも寝たきりで、おじいさんも死んじゃったんでしょ?」
「そうだけど、僕は1度だって僕を不幸だと思った事はないよ」
「そうなの?お母さんに会えなくて、おじいさんも死んでしまったら、私はそれはとても不幸なんだと思ってたわ」
青は不思議そうな顔を見せてから、そのままくるりと向きを変えて歩き出した。
「待って!」
奈緒ちゃんがすぐに青を呼び止めた。
「髪を触らせて」
そう言って振り向いた青の襟足の髪を細い指で優しくつまんだ。青は女の子の指に驚いた。心臓のあたりがドキリとした。奈緒ちゃんの手はひんやりとしていた。
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