第1章:10年ぶりの再会

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土曜日朝7時半の丸の内は 平日の人の波がいっきに潮を引くように静かな街になる。 義昭は沙織の仕事に理解があるため 週末の撮影に参加することを、 快く『大丈夫だよ』と返事をくれた。 低いヒールを鳴らし、 沙織が小走りで和田噴水公園に到着すると 撮影はすでに始まっていた。 沙織は現場から少し離れているところで 撮影を見ていた香山のところへ駆け寄った。 「編集長、遅れてすみません。」 「ええ、聞いていたので大丈夫よ。 今のところ撮影も順調だし。」 「そうですね、いい感じですね。」 そこには撮影慣れをしているビジュールの男性版ファッション誌である メンズビジュール専属の男性モデルたちが 春風が吹く肌寒い中、 夏服を着て撮影をしていた。 メンズビートルズ の読者層は ビジュールと同じく30代から40代なので、 モデルも、30代が多い。 「今あちらで撮られている方、 先月のメンズビジュールのカバーの方ですよね?」 「ええ、そうよ。 向こうの編集長説得して加えさせてもらったの。」 香山は生き生きした口調で続けた。 「普段女性ばかりの現場だから なんかテンション上がっちゃうわね。 特に30代男性ってちょうど脂が乗ってきて 色気があっていいわよね。 一人連れて帰っちゃおうかしら。」 「編集長って、もっと大人な感じの男性が 好みかと思っていました。」 沙織がそう言うと、 ふふ、っと赤いリップスティックで染めた口元を 右手で覆いながら香山は笑い、 「あなたいくつだっけ?」 と訊いた。 「34です。」 「そうね、34ならまだ分からないかもしれないけど 私みたいなアラフィフになると、 若い男のエネルギーが魅惑的に感じるようになるわ。 一種の性癖みたいなものよ。」
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