第15章:幸せに近づく

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月曜日の早朝、 蒼弥が起きた頃には沙織は既に目を覚まし、 キッチンに立っていた。 トントントンという包丁で大根を切る音に耳を澄ましながら、 蒼弥は会社へ行く準備を始めた。 ネイビーのスーツを着、髪の毛をセットした後、 臙脂色のネクタイを持ちながら、 リビングルームへやってきた。 久しぶりに見たダイニングテーブルに並べられた朝食は ご馳走のように見えた。 温泉卵に、厚切りハムなど蒼弥の好物が並んでいる。 それらの前に座り、いただきます、と手を合わせた。 沙織も、蒼弥の合わせ向かい側に座った。 蒼弥は大根の味噌汁を啜った後 沙織に話しかけた。 「今日離婚届出しに行く。」 「本当に離婚するんですか?」 「そんなことで嘘ついてどうする?」 「、、、でも」 決心のついていない沙織は 先に進もうとしている蒼弥に対し 戸惑いを隠せない。 「笹田って言う、弁護士になったやつ覚えてる?」 「あ、はい。」 「あいつがやってくれて。」 「そうですか、、、。」 動揺で 食べ物が喉を通らない沙織を違い 当の蒼弥は至って冷静で一粒、一欠片残さず 朝食を食べ終えた。 「今日は市場(しじょう)が動きそうだから早く行くわ。」 「はい。夕飯は?」 「遅くなるからいらないよ。先に寝てて。」 蒼弥はそういうと、椅子にかけてあったスーツのジャケットを羽織、 小走りで玄関の方へ向かった。
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