第2章:それぞれの不満

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店内はだんだん賑わって来て、空いている席も無くなった。 アップテンポのBGMと、人々の声で騒がしくなる中、 2つあるサンドイッチの1つ食べ終えた蒼弥は 聞こえるか聞こえないかの声で囁いた。 「沙織、会いたかったよ。」 空になったカップを握りしめた沙織の手は僅かに汗ばんだ。 「そういうの、やめてください。」 「そういうのって何?」 「そういうのは、そういうのです。」 強張った沙織の表情とは対照的に 蒼弥は楽しげだ。 「本当変わってないなぁー。」 「・・・」 「かわいい。」 思わぬ言葉に沙織はドキっとした。 「からかわないでください。」 「からかってないよ。」 「わ、私結婚してるんです。 子供も二人いるんです。」 細々しい沙織の声が、太くなる。 「だから?」 「だから、そうやって困らせること言わないでください。」 「困ってるんだ?」 全く息継ぎの出来ない会話に 懐かしさを覚えながらも、 飲み込まれてしまわないようにと 警戒しながら、冷静に沙織は荒い息を整えた。 「私、今すごく幸せなんです。」 蒼弥は沙織の本心を探ろうとするかのように、 沙織の顔をまじまじと見た。 沙織にとってそのたった数秒あまりのことが、 とても長く感じて居た堪れなかった。 「もう行きます」 「俺はまだ食べてるけど?」 「やることがあるので、ごめんなさい。」 そう言って、沙織は逃げるように 空のカップとトレイを片付け 蒼弥を置いて店を出た。
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