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「おやすみ。」
「おやすみなさい。」
いつもの夜。
いつもの平凡な夜だ。
そう自分に言い聞かせながら
先ほどの電話などなかったように
既に目を瞑る夫の隣で横になった。
照明を落とした暗闇の中
互いに背を向けて数分後、
スースーという低音の寝息が沈黙を破る。
義昭が完全に就寝したのを
長年聴き慣れた寝息で確認した沙織は、
まだ鎮まらない興奮を収めるように
自分の胸に手を当てた。
「沙織。」
朦朧とする夢と現実の狭間で
10年ぶりに聞いた声を思い出す。
そして二本の指先を腹の下に滑らせ、
長年満たされることはなかった欲望に触れた。
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