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青い空
この世界から、青が消えてしまった。
年老いた祖母が、ベッドに横たわり、僕に話してくれた。数年前から寝たきりとなった祖母は、最近ではこんな風に話をすることも珍しいことだった。
「あの空を見てごらん?」
「……何もないよ」
「そうかい? お婆ちゃんがもう少し若かった頃は、空はあんな色をしてなかったんだよ」
空は黄色く、海は赤い。
それが当たり前だと僕は思っていた。
しかし、昔は空は青く、海も青かったと祖母は言う。
「じゃあ、青い魚もいたの?」
「ああ、いたよ」
「じゃあ、青い花も?」
「ああ、あったよ」
「じゃあ、ひまわりも青かったの?」
「いいや、ひまわりは昔から黄色だよ」
ひまわりは違ったらしい。
「青には、特別な力があってね。青い鳥は幸福を呼び、青い月は珍しいことから、見た人を幸せにすると言われていたよ」
「へー、青ってすごいんだね!」
祖母は、他にも色々と教えてくれた。
自然界では、唯一魚だけが青色を持っていること。青色は、心を落ち着かせる効果があること。日が青いと書いて"晴れる"と言うこと。
今まで、聞いたこともなかった青について、色々と話してくれた。
青について話す祖母は、とても楽しそうな顔で、僕はそんな祖母を見て、嬉しい気持ちになった。
「ところで、青ってどんな色なの?」
「それは……」
僕の質問に、祖母の顔は一瞬にして曇った。
それもそのはず、すでにこの世界か青は消えてしまったのだから、何かに例えることは出来ない。
赤の反対と言われたが、僕には黄色かオレンジ色しか想像出来なかった。
寂しげな表情で、祖母は黄色の空を見て、こう言った。
「もう一度、青い空が見てみたい……」
この世界から、青を消してしまったのは、神様だと聞く。
僕は祖母のため、この世界に青を取り戻す旅に出た。
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