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鉄錆色の夕焼けに照らされている濁った海を砂浜で眺めているとSが、
「宇宙には限りがあるかもしれないが、人間の悪意にはないって、いい言葉だよな」
「誰の言葉?」
「アインシュタインだよ。ミツバチがいなくなれば世界が滅びるって予言した偉大な預言者だ」
「それはなに? ノストラダムスみたいなもの?」
「あんな世間が仕込んだ預言者と比べるなよ」
Sが吐き捨てるように言った。冗談のつもりだったのに、こんなに怒るなんて想像していなかった。だが、面倒だったので謝らずに、ただ前を見つめた。
波がサンダルに当たるか当たらないかギリギリのところで止まり引いていく。私は、
「そう言えばさ、今朝ラジオが死んだんだ」
「ラジオが?」
「うん」
ペットショップから始めて家に来た日の夜に、ベットの上に置いてあったラジオを落として壊したからそうと名付けられた黒猫。私の足元にお尻を擦り付けて、甘えるようによく鳴いていた。
「今朝、冷たくなってた」
「そっか」
鉛のようなため息を二人同時につき、その後どちらも黙り込んだ。
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