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もう話題が思いつかない。Sとはありとあらゆることを語りつくしてしまった。互いの過去。思い出。各々の将来のこと、二人の将来のこと。思いついたことはなんでも語りあった。だから、もう話題がなにもない。
先ほどSが言った、アインシュタインの話は十回以上聞いたもので、私は毎回返答を変えていた。
今日の私の答えをSは気にくわないようすだった。ちなみにラジオが死んだ話は三回目。今朝というのは半年前の一月七日のことだ。その日から世界中の青空が消えた。
「いつからここにいるんだっけ?」
Sの言葉が風に流され、漣に飲みこまれる。
「気づいたころから」
「なるほど」
どこからかピストルの音が聞こえてきた。もう慣れているので、音の方に目をやることもない。
「今の近かったな」Sが呟く。
「誰か死んだね」
「だな」
泥水のような憂鬱が心に溜まっていく。深呼吸して、それを吐き出そうとしたが、出てくるのは透明な気体だけだった。
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