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それは別に、お世辞でもなんでもなかった。確かに私は、普段からそう思っていた。彼は何故か、少し驚いたような様子でいると、それから苦笑いのような笑みを浮かべた。
「そう、見えますか」
「えっ? ええ……」
少し意外な感じがした。
「違うんですか?」
彼は腕組みをし、苦笑いを続けている。そのとき時計がチラリと見えた。なんとパテックフィリップだ。時計にそんなに詳しいわけじゃないけど、すごく高い、ってことだけは知っている。
「……うーん。だと、いいんですがね。今日は大したことは全然していないんですよ」
「そうなんですか」
「ええ。何人かの知り合いに、メールの返事をいくつかしているくらいですから」
彼は頬杖をつくと、パソコンの画面を黙ってじっと見つめていた。その光が、彼のかけている眼鏡に反射して、白く輝いている。
私は大きく息を吸い込むと吐き出して、もう一度店の中を見渡してみた。
何か妙にだるいような、そんな感じがする。綾の姿はまだ見えなかったし、アイドルタイム的な空間でもあり、閑散としたものだ。
私は彼の着ている紺のジャケットの、ポケットのあたりにそっと目をやった。目を凝らして見ると、蛙がそこに入っているようにも見えてくるしーーまた、そうでもないようにも見える。
「あの」
私がもう一度言うと、彼は顔を上げた。
「はい」
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