4人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
じっと、彼の顔を見た。でもなぜか、その時はもう、不思議とさっきみたいな気後れは、いっさい感じなくなっていた。
私は小さく咳払いをすると、
「その、ジャケットのポケットの、蛙のことなんですが」
と、言った。
なるべくフラットに聞こえるように、口にしたつもりだ。でも確かに、少し言い方がキツくなってしまったのかもしれない。
いまだに悔やんでも悔やみきれない。こういうのって、本当に難しい。でも、自分は決して、彼を責めるつもりでそう言ったわけではなかったのだ。
「えっ? ああーー」
彼は頬杖をやめると、苦笑いをしてぽりぽりと頭を掻いた。
途端に何かしおしおとした様子で、彼は小さく縮こまると、申し訳なさそうに肩をすくめた。もちろんただ、私の前ではそんなふりをして見せただけなのかもしれない。
でも、私はそれを見て、途端にまた後悔するような、そんな気分になったのだ。
しばらくの間、互いに沈黙が流れた。彼は私から目を離すと、キーボードの上で両手を組み、考えごとをするようにしている。私はふいに喉元に湧き出てきた唾を飲み込んだ。
と、急に彼の方から、口を開いた。
「あなたは……」
「えっ?」
「蛙が、お好きなんですか?」
慌てて、彼の顔を見た。
「え、私が、ですか?」
「ええ」
「……」
最初のコメントを投稿しよう!