不完全な人間たち

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 その場で、慌てて考えた。だって、まるで思ってもない質問だったから。彼は妙に真剣な顔で、こちらをじっと眺めたままでいる。  さて、どうなんだろう。  私は……あの蛙が好きなんだろうか?  もう一度、首を傾げる。 「さあ、好きかどうかは……」  言いながらも、彼の妙に執拗な、そんな強い視線を感じ続けていた。 「でも……きっと嫌いじゃないです」 「そうですか」 「ええ。お客様の飼っている、あの蛙もーー」  何の気なく(本当に!)そう答えると、途端に彼は、下を向いてクスクスと笑いだした。 「……何か?」  彼はそのまま笑い続けていた。 「別に、飼っているわけじゃありませんよ」 「……」  私はそのとき、たぶんひどく顔を赤くさせただろうと思う。と同時に、少しだけムッともした。  もう一度、気まずいような沈黙が流れた。その沈黙は、どうにも耐え難いものだった。でも彼は、ぜんぜん平気な、そんなきわめて平然とした、すました顔をして、柔らかく微笑むと、また一口コーヒーを啜る。  もしこれが、私じゃなく、例えば綾だったならばーーそんな彼の態度に、きっと(たけ)るように怒り出してしまったことだろう。  と、彼はふいにかけていた眼鏡を外した。眼鏡を外した彼の顔を見たのは、この時が初めてだった。
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