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声の大きな綾は、まるで遠慮というものもない。私は黙って苦笑いしながら、カウンター拭きを続けた。でも綾はまだ、何か奇妙な動物でも見るように、じっとその男性の顔を眺めている。
彼は、うちのカフェの常連客だ。週の二、三日は店に来て、必ず隅のその席に座る。
もし、運悪く空いていなければ、仕方なさそうに別の席に座るが、どうも落ち着かない様子で、すぐにパソコンを閉じるとそのまま立ち去ってしまう。
この日はギンガムチェックの青色のシャツに、ベージュのジャケットを羽織って、綺麗な茶の革靴を履いていた。服装はいつも小綺麗にしていて、なかなかおしゃれなのである。
髪型は決まって、白髪の混じったモジャモジャとした天然パーマを、ただ無造作にさせているだけ。そして始終、頭を指先でポリポリと掻いている。
綾はトンデモな人だと、いつも決めつけるようにそう言っていた。私にとっては、それは別にどっちだって構わなかったがーー彼のことは、そんなに嫌いではなかったのだ。
綾の言う、そのことに私が気がついたのは、つい先日のことだ。その時は、特にトラブルになるということもなかった。
男性はさっきから、ずっと眉をしかめて、顎に手をやり、パソコンの前でしきりに何か考え込んでいる様子でいる。私はカウンターを拭き終えた布巾を折りたたみながら、彼のその様子を何となく、ぼんやりと眺めていた。
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