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それが起きたのはーー通りに面した窓から、オレンジ色の夕日が差し込み始めた、夕方ごろのことだ。
私は客席に行くと、カップやグラスを片付けながら、何気なくいまだカウンターの隅に陣取っていた、その男性の方を見ていた。
すると彼はーーやがて回りの様子をそっとうかがうように見渡し始めた。それから着ていたジャケットのポケットの中に、そっと手を入れた。そして静かに手を引き出すと、ゆっくりと手のひらを広げた。
「……」
その上には一匹の、小さな青蛙が乗っていた。
彼はじっと、手のひらの上の青蛙を見つめると、静かにパソコンのキーボードの脇のところに置いた。
「……あっ」
途端に綾は、凍りついたようになった。
「ちょっと瑠璃、見て」
私の隣に駆け寄ってき、小声でそう言った。発光するモニターの白色の光を浴びて、モスグリーンのような色になった、パソコンの上の小さな青蛙はーーじっとそこでうずくまるようにしている。私の目は、その生き物に釘付けになった。瞬間、顔を上げた彼と、私の目が合った。
2
夕方の四時を少し回ったころ、パソコンの電源を落とし、ようやく男性が帰り支度を始めた。
よく使い込んでいそうな黒革のカバンの中にパソコンを大事そうにしまい込むと、彼は立ち上がった。
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