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「……ねえ。ちょっとさあ、瑠璃にお願いがあるの」
綾が唐突に言った。
「お願い?」
「うん」
「何、お願いって」
さっきの嫌な予感が、ふいに蘇る。綾は歩きながら一度店の方を振り返ると、また続けた。
「悪いんだけどさ……今度また、今日のあの人来たらーーカエルのこと、少し注意しといて欲しいんだ」
「えっ?」
途端に私は、そう大声を上げた。
綾は、私の顔をじっと見ている。
「ね?」
「……ちょっ、私が?」
「うん、頼むわ」
綾はパンプスの音を立てて歩きながら、私の顔をじっと覗き込むようにしている。
「だってさあ、そのうちきっと、他のお客さんに迷惑がかかるに決まってるじゃない?」
「だったら綾が、自分でそう言えばいいじゃない」
「そりゃだって……瑠璃の方が、よくあの人と喋ってるしさ。私今まで、一言も口聞いたことないし」
「私だって、そんなに喋ってないよ」
綾という人はでも、こういうとき、今までの経験上、性格的に決して譲ろうとはしない。彼女は一度言い出したら、決して聞かないタチなのである。
そういう人って、いるでしょう?
私は諦めて、肩を落とした。
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