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不完全な人間たち
1
昼時の時間を過ぎると、店の中は少し落ち着いた。
カウンターの中で、ぼんやり物思いにふけりながら、磨き上げたばかりのパン皿を並べていると、客席を片付けてきた綾がそばにやってきて、そっと私に耳打ちした。
「……ねえ瑠璃、今日も来てるよ」
私は手を止めると、顔を向けた。
コの字型になっている木製カウンターの隅で、一人の男性が難しい顔をして、ノートパソコンに向かっている。
同僚の綾は、こういう時、物怖じというか、そういうことを知らない。好意なら好意、嫌悪感なら嫌悪感、といったものを、直接現すのだ。
この時も綾は、そのお客の男性に向かって、露骨に興味半分、違和感半分、といった、そんな視線を投げかけていた。
「……ねえ」
「何?」
「あの人、今日もあれ、持ってるかな?」
綾はさも、心配してみせるようにそう言った。
私はパン皿を綺麗に並べ終えると、カウンターの上を濡れ布巾で拭き始めた。
「さあ」
「……こないだも瑠璃に言われて、気をつけてあの人見てたらさ。本当に持ってたんだもん。びっくりした。ありえないよ。こないだなんか、パソコンの上にちょこんと乗ってたよ」
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