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 北の森の沼地には、それはそれは恐ろしい魔女が住まうと言う。  魔女はげに醜い顔をしていて、腰を曲げて歩く姿は実に見窄らしく、汚い。これを哀れな老女と見紛い、情けをかけること無かれ。  この世成らざる技を使い、命を、魂を、食われてしまうよ。 「あれあれ、こんな処に迷子かね?」  それは、樹齢300年は経っている大木の根元に蹲っていた。  擦れて布切れのようになった衣服を身に纏い、覗いた手と素足は木の枝に劣る程に細く、泥と垢に塗れている。同じように汗と脂にべたついた髪の毛の合間から、怯えた瞳が覗いた。唯一、そのヘーゼルの双眸だけが汚れを知らず、輝いている。  まだ十にも満たない子供だった。 「……魔女?」  男児とも、女児ともつかない高い声で、子供は呟く。ざんばら髪は刈りそろえられてはいなく、髪型からも、服装からも、性別を判断することは出来かねた。  北の森の沼地に住まう魔女の話は、広く伝聞されている為、子供の耳にも入っている。  その通り、老婆は噂の魔女だった。  遠慮なく上から覗き込んでくる老婆の姿に、抱えていた膝を、子供は更に強く握っている。伸びた爪が皮膚に食い込み、痛そうだ。     
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