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「お前のようなひ弱な子供は、ここでは生きていけないよ。早くお帰り」
沼は、まだ遠い。だが、毒を吐く沼の瘴気は森を覆い、この土地の空気を汚している。
初めて北の森に足を踏み入れた子供には、沼の場所も何も分からなかったが、これ以上に深入りをすれば身体に害が出ることを、痛い程に魔女は知っていた。
簡潔に忠告を促すと、魔女は森の奥に歩いていく。木の根元にいる子供は、その後ろ姿を呆然と見送った。
翌日、まだ日も昇らない内に目覚めてしまうと、魔女はどうにも昨日の子供が気になった。
いつもなら、人間とは極力関わり合いにはならず避けて通るものだったが、自分のテリトリーである森の中で、子供の死体が出ることは気が進まない。
町に帰っておれよとの願いは虚しく、大木の根元に来ると、まだ子供は蹲っていた。
「おやおや、まだ生きていたのかい」
この森には、充満する毒気と共に、その瘴気に耐えられる魔物が息を潜めている。
感心するように言って、魔女は子供を覗き込んだ。一晩を真っ暗闇の森の中、獣の息遣いを感じながら過ごし、元から健康体であるようには見えなかったが、窶れた印象を強く受けた。
「お前は捨てられたのかい」
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