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この子供の姿を見た時から、薄々と勘付いていたことだった。怯えた瞳で魔女を見上げ、子供は小さく頷く。
「恐ろしいかい」
顔を近付けて、ニイと魔女は笑った。息を飲み込んだ子供が、弾かれたように首を振る。否定であったが、それは偽りであると分かりきっていた。
「着いておいで」
魔女は、手に持っていた二つのランタンから、明かりが灯っていない一つを子供に渡した。魔女が手を翳すと、息を吹き返すように微かな明かりが揺らめく。不思議な青白い炎は、ランタンの中央でゆらゆらと玉を作り、魔女と子供の足元を照らした。
魔法だーー子供は乾いた唇を引き結んだ。
魔女の後ろを着いていくと、やがて拓けた場所に出た。空を覆い尽くすように、鬱蒼と生い茂っていた木々が突如として途切れ、円形の広場が姿を表す。
夜明け前の涼やかな空が目に映ったせいか、苦しかった息が楽になったような気がした。
広場の中央に、小屋がある。小屋の隣には、ささやかな畑があった。
小屋の前にある井戸に誘われると、子供は冷水を浴びせられた。冷たい。「あ」とも「う」とも子供が言えぬまま、魔女は乱暴ともとれる手つきで体を、髪を洗っていく。よほど汚れが酷かったのだろう、欠片になった石鹸は泡立たなかった。
「……男の子かい」
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