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三度目にしてようやっと泡立つようになった石鹸を洗い流すと、濡れ鼠になった子供の姿を見て魔女は言った。無遠慮な視線を裸体の隅々にまで受けて、居心地の悪さから子供は顔を伏せる。
子供の身体には大小様々の傷跡があった。どのような生活をおくってきたのか、傷を見るだけで窺い知ることが出来る。その中でも最も古いであろう首筋の傷跡を認めると、魔女はぎょろりと落ち窪んだ目を細めた。
「おいで、まずは服を仕立てにゃいかんね」
それから、魔女と子供の奇妙な同居生活は始まった。
森の中での生活は質素なものだ。小屋の隣に設けられた畑で野菜を育て、自炊をして過ごす。
沼の毒気のせいで、生き物は魔物しか生息してはいなかった。魚や肉と言ったものはたまにしか食せなかったが、一日一度の食事にも困る生活をしていた子供には満足だった。
たまのご馳走は月に一度だ。ローブで深く顔を隠した魔女が、近隣の町や村に買い出しに出かけるのである。魚や肉と言った森ではとれない食料と、石鹸などの日用品を調達してくる。合間、子供の為の本も、数冊持ち帰ってきてくれた。
魔女と暮らすようになって三月もすると、マッチ棒のようであった子供の体は、ふっくらと肉をつけてきた。土色の悪かった顔色も、生きた体温の赤みを差している。
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