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子供は広場から出ることを禁じられていた。広場には特殊な結界が張ってあり、沼の瘴気の介入を閉ざしているらしい。清浄な空気を吸えるのも、水を飲めるのも、野菜が育つのも、この広場の中だけだ。
魔女の言いつけを子供は素直に聞き、外に出て行くことはなかった。
ある日のこと。畑でトマトの世話をしていると、魔女が誤って指を切った。青く、小さく実ったトマトを、栄養が十分に行き渡るように間引いている最中、鋏で指先を切ってしまったのだ。魔法が使えるのだから、手間のかかる畑仕事などせず、楽に作物を育てたらいいのにーー子供がそう零した時だった。
「ここは暇だからね。時間はたっぷりとあるし、丁度いいんだよ」
魔女は指から滴る血を眺めて、物思いに耽るように言う。放っておいたら手当ても何もしなそうだーー堪らず思って、子供は魔女の皺に塗れた手を取った。
「痛い?」
加齢と共に肉が落ち、骨ばみ関節が目立つ手は、まだ子供のものよりも大きい。小さな両手で包み込むと、子供は魔女を見上げた。
鷲鼻は大きく、目は骸骨のように落ち窪んでいる。だが、そこに覗く瞳は、子供と同じくヘーゼルの色で美しい。
ぎゅうと子供が手を握り締めると、ほんのりと熱がこもった。指先を刺激していた痛みが引いていく。そうして子供が手を開くと、魔女の指先からはパックリと口を開けていた傷口がなくなっていた。
治癒の魔法だ。
すぐに魔女は分かった。
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