期待

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(つ・・・疲れた・・・) 帰宅するや否やベッドに直行し倒れ込む。 次の日が休みで良かった。 大きなため息をついて目をうっすら開けた瞬間。 けたたましい程の大音量で電話が鳴った。 「ヤス」 画面に表示された名前にドキッとした。 夜の9時半。 (え?家族居るよね?そこで電話!? もしかして仕事の事??) そう思いながら画面をスライド。 「はい。もしもし。」 電話の向こう側は静かだった。 そこから聞こえてきた少し低いヤスの声。 「あ、俺。」 まだアルコールが大量に入っていた私は 関係を持つ前の私達みたいに話出した。 「俺俺詐欺なら間に合ってまーす。」 電話の向こうでヤスが煙草を吸いながら 笑っているのがわかった。 「ちょっと!煙草吸ってんの!? 赤ちゃんの体に毒なんだから今すぐ消して!」 「・・・」 ヤスは何も言わない。 「ちょっと!聞いてんの!?」 (ヤバい。イライラしてきた。) 次の瞬間、言葉を失った。 「赤ん坊居ねーし。」 !? どういう事かわからず黙っていると 静かにヤスが話始めた。 「離婚するみたい。俺。」 日本語がおかしいと思うが言葉が出ない。 「だせーんだよ俺さ。 仕事ばっかやってたら嫁のマタニティーブルー? それに気付いてやれなくて。 気付いたら部屋から荷物無くなってて テーブルに離婚届が置いてあって。 何回電話しても出ねーし。 メールしても返信来たと思えば 「離婚届さっさと出して」 ってだけ。笑っていいよ。」 笑えなかった。 嬉しくもなかった。 自分の感情がどういう感情なのかわからない。 「いつ? いつそうなったの?」 必死に絞り出した言葉。 「つい最近だよ。 今週に入ってから、弁護士挟んで話してる。 まじ面倒くせーの! 養育費はいらないから 子供には会わせないとかさ俺父親なんだけど!」 怒ったような口調。 「いや・・・私に怒らないでよ。」 なんて言えばいいのかわからない。 男心がわからない。 「別に怒ってねーけど!」 (あ、今少し笑った?) 相変わらずヤスが何を考えているのか。 どうしたいのか。 私にはわからないままだった。 でも、彼には笑って居て欲しい。 笑った時のくしゃくしゃになる顔が 何よりも大好きだったから。
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