期待

6/10
前へ
/36ページ
次へ
(こんな時、ヒーローみたいにヤスが来て ショウを殴ってくれて。 一生お前を守ってやる! とか・・・??) こんな状況でこんな妄想ができた自分を殴りたい。 もう頭がぐちゃぐちゃになっていた。 その間も度々、ドアを叩き話かけるショウ。 どうしようもなかった。 自分の情けなさにも苛苛してきて。 いつまでも居座るショウにも怯えながら苛苛。 ガチャ 隣の部屋のドアが空いた。 「ちょっと!隣でいつまでも 騒いでんじゃないわよ!警察呼ぶわよ!」 隣のおばさんが怒鳴ってくれた。 すみません、という声が聞こえて 立ち去る音が聞こえてきた。 どうやら帰ったみたいだ。 急いで隣の部屋にお詫びに行くと おばさんは「無事で良かったよ」 と言って抱きしめてくれた。 私は本当に申し訳なくて引っ越しを考え始めた。 お風呂に入り落ち着きを取り戻した時。 部屋のチャイムが鳴った。 鳥肌がたったが恐る恐るドアの外を覗いた。 そこに立っていたのはヤスだった。 私はバスタオル1枚巻いただけの姿だというのに ヤスの顔を見た瞬間、何もかも忘れて 勢いよくドアを開け抱きついてしまった。 溢れ出す涙にヤスは慌てていた。 とりあえず髪を乾かし服を着ろと言われ 済ませてから隣に座った。 何故泣いていたのかと聞かれ 全て話した。 「引っ越し先なら俺も協力してやる。 セキュリティも今度は考えろよ?」 その言葉でまた涙が溢れてきた。 「泣き虫」 そう言いながら泣き止むまで 優しく頭を撫でてくれた。 落ち着いて来た時にふと思い出す。 「あれ? ってか、ヤス・・・何しにきたの?」 ・・・ (何!?この沈黙!!) ゆっくり首をかしげてみた。 ・・・ 何も話さないヤス。 ・・・ 煙草に火を付けたヤス。 ・・・ 私も煙草に火を付けてみた。 吸ってみた。 ヤスをチラ見してみた。 ・・・ (何故、何も言わない!?) この人の取り扱い説明書が欲しくなった。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

78人が本棚に入れています
本棚に追加