期待

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私は真紀さんがデスクに戻った後 缶コーヒーを買いながら思った。 (私・・・ショウの事責めれないじゃん) 缶コーヒーを持つ手が震える。 ヤスの分の仕事もまとめて夕方6時。 薄暗い帰り道。 何故遠回りをしようなんて思ったんだろう。 見たくない物を見てしまった。 「お願いします! 彼女に会わせてください! お願いします!」 大きなビルの入り口で警備員さんに 何度も何度も頭を下げるショウの姿。 昨日の今日でこんな事。 (やっぱり信用しなくて良かった・・・) 私はその光景に背を向け足早に帰った。 私はモヤモヤする気持ちを仕事にぶつけた。 毎日毎日、急な仕事は無いのに残業して。 どれくらいの日数が経ったのかわからない程。 ある日の夜。 残業していた私の電話が鳴った。 ヤスから。 「はい。もしもし。」 「俺。今どこ?」 会社で残業していると伝えると、電話が切れた。 私はまたパソコンに向かう。 ふとオフィスを見渡すと私以外、誰も居ない。 (時間は・・・19時・・・ 何やってんだろ私・・・帰ろう。) 身支度をしているとエレベーターの方から 誰かが走ってきた。 「はぁはぁ・・・ なる!?・・・お前・・・何してんの!?」 ヤスが息を切らしながら言った。 私は少し冷たく返事を返した。 「別に?てか、ヤスこそどうしたの?」 ヤスは深呼吸をしてからゆっくりと話し出した。 「正式に離婚した。」 私の隣のデスクに寄りかかりながら 小さくため息をしてまた話し出した。 「最初はさーわけわかんなくて ムカついたりしたけど、今は逆でさ。 なんか、スッキリした感じ!」 そう言って笑顔をくれたヤスの左手をそっと握る。 私達は言葉を交わさず 静かにキスを交わした。 何回も何回もキスをした。
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