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パジャマ姿のまま玄関を出て、家の周りを少し歩いてみたが、早苗らしき人物は見当たらなかった。
焼けたトーストのいい匂いがする家に戻り、ダイニングテーブルの椅子に腰をおろした。気のせいだったかなと思い、テーブルのコーヒーに手を伸ばすが、その手が止まる。
リビングの庭へとつづく掃きだし窓。閉じたレースのカーテンの裏に早苗がいた。さっきと同じ無表情の青い顔でこちらを見ている。
突然のことに言葉を失う。何が起きているのか理解ができなかったが、知った顔のせいか恐怖というよりリアルな夢でもみているような不思議な感じがした。
背中を向け朝食の支度をしている梨花になんとか声をかけようとしたその時、早苗の身体が少しずつ薄くなっていき、やがて、すぅっとその姿を消した。
今になって恐怖が涌いてきた。俺は両手で顔を覆いうつむく。
死んだのか──早苗。俺のせいで......自殺? 俺を恨んで化けてでたのか......。
嘘だ! 嘘だ、嘘だ......、幻覚、目の錯覚に決まっている。
顔を覆った両手をゆっくりと離す。いつの間にかテーブルの向かいに梨花が座っていた。テーブルに置いたマグカップを両手で覆うように添えて、こちらに顔を向けている。
「あのね......」感情の読み取れない顔で梨花が口を開いた。
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