青い顔

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「先週の金曜日に足立さんて方が訪ねて来たの」足立──早苗の名字だ。 「その人、開口一番あなたと一緒になりたいから別れて欲しいなんて言い出してね、──あなたとは三年も前から男と女の仲だなんてことを言うのよ」 なんてことだ。まさか早苗がそんな行動にでるなんて。 「勿論、わたしはそんな話信じなかったわよ、あなたが帰ったらちゃんと話しようと思ってた。でもね、あの人バッグから何かを取り出したの」 梨花は俺を見ているのだが、その目は俺の身体を透かし、どこか遠くを眺めているように見えた。 「テーブルの上に、投げ出すように置いたのは、──母子手帳だったわ......あなたの子がお腹の中にいると、あの人、勝ち誇ったように言ったのよ──」 なんのことだ、俺はそんな話聞いていない......、いや、俺が聞かなかったんだ。早苗を避けてきた。 「わたし、あの人の勝ち誇った顔を見てたらなんだか目の前が真っ白になっちゃって──気がついたら足立さん......床に転がっていたわ」 「梨花......お前、まさか......」 「でもきっと大丈夫よ、あなたがあれだけ深く掘ってくれたんだもん、絶対大丈夫──」 まさかあれは、畑を作るためじゃなくて......。 目の前が暗くなった。近くにいる妻の声がまるで、遠くから聞こえてくるように感じる。 「あらあなた、どうしたの? そんなに蒼い顔をして──」
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