裏側。

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ここでふと時計の方へ目をやり、タクミは少し驚いた顔をした。 「あ、もうこんな時間か。 結構話し込んじゃったね」 そしてリーナの方へ足を進め、リーナが手に持っているアルバムを受け取る。 「そろそろリーナもお休み。 明日も、早いんでしょ?」 「・・・はい」 ドアまで見送られながらタクミに別れの挨拶をしようとすると、突然彼に呼び止められた。 「あ、そうだリーナ」 「?」 タクミの方へ振り向くと、彼は急に改まりながら小声で話しかけてくる。 「今まで僕が話したことは、できれば誰にも言わないでね」 「どうしてですか?」 「あー・・・」 そう問うと、彼は困ったような表情をしながらゆっくりと言葉を紡がせた。 「・・・これはあくまでも噂で、本当かどうかは分からないんだけどさ。   今話してきた“悲しい顔”や“涙”“嘘”っていうのは、リーナにも先程伝えたようにあまりいい意味ではないんだ。   ・・・もっと言うと、そのような負の感情、負の言葉っていうのは、僕たちロボットには必要ない」 「あ・・・」 この時、リーナは先刻博士から言われたことを思い出す。 『そのような負の感情は、お前たちには必要ないんだ』 タクミと博士が同じような発言をし、リーナはこれから聞かされる彼からの言葉を察した。 「だから・・・もしね。 僕たちがそのような負に関するものを憶えてしまうと、ここにいる博士たちに記憶を全て消されてしまう可能性があるんだ」 「記憶を全て?」 「あぁ。 今の技術じゃ、負の感情だけを消すっていうことはできないらしくて。 だから記憶を全てリセットして、新たなロボットとして生まれ変わるようにするんだよ」 「そんなに負の感情って、持ってはいけないものなんですか・・・?」 「僕たちは人を笑顔にするのが目的でしょ? だけどそういう負の感情を持っていると、人を笑顔にさせることなんてできない。   だから必要ないって、博士たちは判断するのかもね」 そしてタクミはリーナから視線をそらし、小さく呟く。 「それにね、リーナ。 ロボットだからといって、同じ仲間、みんなを信じてはいけないよ。 中には悪い性格を持つ者もいるんだ。   彼らに負の感情を憶えてしまったことを博士に伝えられて、記憶を消されてしまう可能性もある」 ―――だからさっき、この話は誰にも話さないようにって・・・。 ここでタクミは優しい表情になり、リーナにこう口にした。 「まぁ、これはあくまでも噂だからね? 本当に記憶を消されるのかは分からない。 僕はリーナを信用しているから、今教えたのさ。   リーナはこれから、たくさんのことを見て知って、学んでいくわけだから」 そしてタクミは部屋の扉を開け、リーナを部屋へ戻るよう促す。 「じゃあ今日は本当に、話を色々聞いてくれてありがとう。 また分からないことがあったら、聞きにおいで」 「はい。 今日は本当に、ありがとうございました」 たくさんのことを教えてもらった彼に、深くお辞儀をして礼を言った。 リーナの部屋 タクミの部屋の作りとは、全く変わらない自分の部屋。 カーテンは開いたまま、窓越しから届く月と星の小さな光だけが、この部屋を優しく照らしてくれていた。 灯りはつけず、リーナは机へと向かう。 机上にある小さな電気だけをつけ、引き出しからノートとペンを取り出した。 『来栖悠くん 11歳 1日目』 一番上にそう書き、今日起きた出来事、学んだことを文字として綴っていく。  そして――――今日の分を書き終えたところで、ふと隣にある棚の方へ目をやった。 そこには先刻見たタクミのものとは違い、リーナの棚の上には何も置かれていない。 ―――写真、かぁ・・・。 ―――私もハルくんとの思い出、何か欲しいな。 そこで今度は、時計の方へ目をやった。 時刻は12時を回り、次の日付となっている。 ―――そろそろ私も休まなきゃ。 ―――確かハルくんは、6時に起きるんだったよね。 ―――なら私は5時に起きて、すぐ病院へ向かわないとな。 今書いていたノートを引き出しの中へ戻し、部屋の隅に置かれている大きなカプセルのところへ向かった。 これは真ん中に座るところがあり、ロボットたちの充電器でもある。 黒と青で作られたこのカプセルは、どこか近未来を想像させるような神秘的な作りとなっていた。 その中へそっと腰を下ろし目を閉じて、リーナは今日一日を無事に終えた。
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