舞の事情。

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舞の事情。

数日後 午後 悠の病室 舞の余命、残り二週間 悠の心は、確かに舞から離れつつあった。 それはリーナにとって本望であり満足する結果ではあるのだが、何かが違う。 「ハルくん、今日もリハビリ休む?」 「・・・うん。 動きたい気分じゃない」 舞と喧嘩してからの次の日は、リハビリを続けていた。 だがその翌日から、悠の意欲はよりなくなりリハビリには手を付けられずにいる。 食欲もないし勉強もまともにできないしで、活気のない日々を数日送っていた。 「でも、身体を少しでも動かした方が気持ちがスッキリするかもよ?」 「・・・そっか。 分かった」 あまり反抗する気にもなれないのか、リーナのその言葉に小さく頷きベッドから降りる悠。 そして重たい身体を無理に動かしながら、病室を何度も往復し歩くのに慣れさせる。 たった数日リハビリを休んでいただけなのだが、先日見た時よりも歩くスピードは落ちていた。 そんな彼を見て、少し心配になる。  これ以上暗い表情をしている悠を見ていられなくなり、ついにリーナは一人の少女の名を口に出してしまった。 「・・・ねぇ、ハルくん。 ハルくんは、舞ちゃんと関わらない方が気持ちが楽?」 「ッ・・・」 舞という名を聞いたからなのか、一瞬反応を見せ悠はその場に立ち止まる。  「・・・うん。 そうだね」 「・・・」 俯き目も合わさないまま小さな声でそう答えると、リハビリを再開した。 だけどそんな彼を見て、リーナには不安が募っていくばかり。 ―――本当に、その方が気持ちが楽なの? ―――じゃあ・・・どうしてハルくんは、笑ってくれないの。 舞と距離を置くのはいいが、数日経っても悠の笑顔は戻らなかった。 だとしたら彼は、本当は少女と関わった方が気が楽なのにリーナに対して嘘を言っているのだろうか。 それは、何のために? もしその考えが正しかった場合、悠から笑顔を取り戻すにはもう一度舞と関わらせた方がいいのだろうか。 リーナは本格的に迷い始めた。 本当は距離を置いた状態でいるのが一番の理想だったというのに、何かが違う。 ―――・・・こんなの、私が見たいハルくんじゃない。 ―――ハルくんが笑ってくれることを優先しなきゃ。 悠はリハビリを続け、リーナは一人考え込んだ結果――――明日、直接舞に会って聞くことに決めた。 翌日 午前 あまり意欲がないと自覚していながらも、一応悠は勉強する時間は守っていた。 国語のセットを取り出したことを確認すると、一枚のプリントを彼に手渡す。 「昨日、ハルくんのために漢字のプリントを作ってきたの。 といっても、私の手書きだけどね。 これ、解いてくれる?」 「・・・分かった」 ずらりと問題が並んだプリントを受け取ると、リーナは続けて言葉を口にした。 「ハルくんが問題を解いている間、ちょっと私出てくるね」 「え、どこへ行くの?」 「購買だよ。 ハルくんは何か、欲しいものとかない?」 「・・・特にないかな」 「そっか。 じゃあ、ハルくんが好きそうなもの買ってくるね」 そう言って立ち上がり、財布と小さなバックを手に取った。 そして病室から出ようとすると、悠が優しい口調で見送ってくれる。 「・・・お姉さん、行ってらっしゃい」 「・・・うん。 行ってきます」 一人取り残され寂しそうな雰囲気を醸し出す彼に少し同情するも、そっと扉を開け病室を後にした。 といっても、購買へ行くのはついでしかない。 これから舞の病室へ足を運ぼうとしていた。  本当は午後の悠が休んでいる時間に行きたかったのだが、もしかしたら舞は悠と喧嘩をしても、子供たちの相手をするために午後は広場へ行っているのかもしれないという推測を立て この時間を選んだのだ。 悠が駄目なら、舞から直接今の互いの関係についてどう思っているのか聞き出せばいい。 悠の笑顔を取り戻すために、第一歩をリーナは踏み出した。
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