舞の事情。

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だがいざ歩き出すと、肝心なことを忘れているのに気付きリーナはその場に立ち止まる。 ―――そう言えば、舞ちゃんの病室どこにあるのか分からないな。 ―――・・・舞ちゃんを担当しているナースさん、いるかな。 そう思い、とりあえずナースステーションを見て回ることに。 この病院にはかなり多くの病室が備わっているため、一部屋ずつ確認していくのは無謀であった。 悠の病室の階にはいないことが分かると、今度は一つ階段を上がり4階を確認する。 すると運よく、舞を担当しているナースを発見した。 「あの!」 その姿を見るなり小走りで彼女のもとへ向かうと、ナースもリーナのことに気付き笑顔を向けてくる。 「あら、リーナさん。 こんにちは。 どうかなさいました?」 「こんにちは。 ・・・舞ちゃんと少し、話がしたくて」 「いいですよ。 舞ちゃんは今、病室にいると思います」 ナースから許可を得て、舞のいる病室も教えてもらった。 彼女はこの階にいるらしく、かつ広場の近くだということで頻繁にそこへ訪れていることにも納得する。 礼を言い、早速舞のもとへと足を運んだ。 ―コンコン。 「はい」 病室のドアをノックすると、中からは舞の小さな声が聞こえてきた。 場所が間違えていなかったことに安心するも、間を空けることなく静かに扉を開く。 「あ・・・。 リーナさん」 「舞ちゃん、こんにちは。 ちょっと、お話いいかな」 気を遣うように優しい表情でそう言うと、彼女は小さく頷いてくれたため中へ入った。 舞は今、一人で読書をしていたようだ。  更に奥にある少し開かれている窓からは、心地のいい風が申し訳ない程度に入ってきて少女の身体を優しく包み込む。  リーナが来たことにより本を閉じると、そっと棚の上に戻した。 それに続くよう、リーナもベッドの横に置いてある椅子に軽く腰をかける。 するといきなり、舞から話を切り出してきた。 「・・・ハルちゃんの、ことですか?」 「・・・うん」 その言葉に気まずい気持ちを持ち合わせながらも小さく頷くと、彼女は少し頭を下げてきた。 「私のせいで、ハルちゃんを怒らせてしまってごめんなさい」 「ううん。 それは大丈夫だよ。 舞ちゃんの気持ちも、分かるから」 「え・・・? どうして」 リーナの発言に驚いたのか、顔を上げながらそう呟くも何かを察し言葉を付け足してくる。 「・・・あ。 私のこと、聞いたんですか?」 「・・・うん」 少しの間を置いてそう答えると、彼女は小さく苦笑した。 「そうですか。 私、あと二週間しか生きられないんですよ。 長く感じますが、きっとあっという間ですよね」 「・・・」 だがその発言に上手い返事が見つからず、黙り込んでしまうリーナ。 それでも舞は気まずい雰囲気を作らないように努力しているのか、続けて話を振ってくる。 「もう原因は聞いていると思いますが、ハルちゃんが私にああいうことを言ってきたということは・・・。 ハルちゃんには私のこと、伝えていないんですか?」 「・・・そのことなんだけど、ハルくんには伝えた方がいいのかな?」 今まで一番悩んできたこと。 それを直接、今舞に聞くことができた。  これで彼女からの望みを聞けばその通りにすればいいだけのため、リーナの負担もかからなく大分楽になる。 だからその期待も持ち合わせ、答えを待っていたのだが――――またもや舞は、小さく笑ってこう返した。 「それも聞いていると思いますが、どちらでもいいですって」 「でもこれは大切なことだから、簡単には決めたくないの」 本心を言うと、彼女は驚いた顔を見せる。 だけどすぐに優しい表情へ戻り、そっと言葉を紡ぎ出した。 「・・・優しいんですね。 でも本当に、どっちを選んでもいいんです。 伝えても伝えなくても、きっとハルちゃんは最終的に悲しんでくれると思うから」 「・・・」 ―――・・・やっぱり、そうなんだ。 どちらにせよ、結局は悠は悲しむ。 それを断言されては、何も返すことができなかった。  だけど複雑な表情をしているリーナに気付いたのか、舞はすぐに謝りの言葉を述べてくる。 「ごめんなさい。 リーナさんに、難しい役を負わせちゃって」 「ううん。 大変なのは、舞ちゃんの方だから」 「大変だなんてそんな。 ・・・私はあと二週間、頑張って生きるだけですよ」 そう言って自虐的に小さく笑うと、彼女は窓の方へ視線を移した。
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