舞の事情。

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ここで一度話が途切れると、今度はリーナから舞へ話を振る。 「・・・ねぇ、舞ちゃん」 「はい?」 「舞ちゃんはもう一度、ハルくんと会いたいって思わない?」 「ッ・・・」 単刀直入な質問に驚いたのか、一瞬言葉を詰まらせた。 だがすぐに俯き、その問いの答えを小さな声で返していく。 「思いますよ。 この気まずいまま別れたら、絶対に後悔するって。 ・・・だけど」 「だけど?」 「・・・だけど最近、このままの方がいい気もして」 「それは、どうして?」 優しい口調でそう尋ねると、舞は苦笑した表情を顔に張り付けながら頭を上げ、リーナのことを見た。 「・・・もし仲直りしてまた二人で笑い合える日が来るようになったら、別れる時きっと苦しくなるから」 「・・・」 苦しさを交えた表情でそう言い終えた後、再び軽く俯き続きの言葉を口にする。 「・・・でも本当は、自分でも迷っているんです。 仲直りした方がいいのか、それともこのままでいた方がいいのか。 ・・・だから少しの間、考えさせてくれませんか?」 「うん、いいよ。 舞ちゃんが納得する方を選んで」 「ありがとうございます」 小さく笑いながら礼を言う彼女を見て、リーナは考えた。 ―――舞ちゃんは今、悩んでいる・・・。 ―――ということは、舞ちゃんの答えが出るまで私は・・・? 「リーナさん。 一つだけ、教えておきたいことがあります」 「うん? なぁに?」 リーナの思考を遮るように、新たな話題を提供してきた舞。 一瞬反応を遅らせるもそう聞き返すと、彼女は照れるように少し頬を赤く染めらせながら、ある告白をした。 「実は私、ハルちゃんのことが好きなんです」 「・・・え」 「いつも私に笑いかけてくれる。 私の心を、優しく包み込んでくれる。 こんな私を、ずっと受け入れてくれている。 そんな強くて温かいハルちゃんのことが、私大好きなんです」 衝撃的な事実を告げられるも、特にリーナは何も感情を抱かなかった。 嫉妬心も生まれず、かと言って応援するという気にもなれず。  それは当然、リーナは負の感情というものを知らなければ恋愛感情というものも分からず、恋の事情なんてものには無知に近かったからだ。 ―――舞ちゃんは、ハルくんのことが好き・・・。 ―――ハルくんも、舞ちゃんのことが好きなんだよね。 ―――こういう場合って、どうなるんだろう・・・? 彼らの恋愛事情を把握し健気にそのようなことを考えながら、舞に優しく尋ねてみる。 「それはハルくんに、直接伝えないの?」 「言いませんよ。 これこそ、言ったら別れが苦しくなります。 ・・・でも自分の心だけに留めておくのもあれなので、今リーナさんには伝えちゃいました」 そう言って、可愛らしく笑う彼女。 そんな舞に礼を言うと、ふと壁にかかっている時計へ視線を移した。 「あ、そう言えばこの後、私検査があるんです」 「そうなの? 来るタイミング、ちょっと悪かったかな」 「いえ。 今丁度退屈していたんで、リーナさんが来てくれて嬉しかったですよ」 「そう言ってくれてありがとう。 でもそろそろ、私は退室しようかな」 「あ、リーナさん! 一つだけ、いいですか?」 「うん? どうしたの?」 座っている状態から立ち上がろうとすると、舞が呼び止めてきたため再びそこへ腰を下ろす。 すると彼女は、先程の表情とは一変し神妙な面持ちで口を開いてきた。 「リーナさんに一つ、お願いがあるんです」 「何?」 「リーナさんも既に知っていると思いますが、ハルちゃんは心が強くても、身体は弱いんです。 だから・・・リーナさんが、守ってあげてください」 「私が?」 そう尋ねると、小さく頷き続きの言葉を口にする。 「はい。 ハルちゃんは自分の心は支えられても、身体を支えるのはきっと今でも精一杯だと思うんです。 だからハルちゃんの身体だけでも、守ってあげてください。  その代わり、リーナさんの心は・・・ハルちゃんが、守ってくれますから」 「舞ちゃん・・・」 最後の一言を優しい表情で言い終えると、再度お願いしてきた。 「これは、リーナさんにしか頼めないんです」 これはもしかしたら、舞の最後の願いなのかもしれない。 そう思うと断る気にはなれず、知らぬ間にリーナは小さく頷いていた。 「うん。 分かったよ」 「ありがとう!」 頼みを了承すると、舞はとびっきりの笑顔を見せてくれる。 そんな彼女に、リーナも思わず微笑み返した。 そしてこの後は舞が検査のため、退室することになった。
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