変化。

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数十分後 リハビリを終え少し休憩した後、悠は静かに時計のある方へ顔を向けた。 そんな彼に続けてリーナも目をやると、優しい口調でそっと尋ねかける。 「・・・ハルくん、行く?」 「・・・うん。 広場へ、行こうか」 先刻よりも少しぎこちない笑顔でそう口にした後、二人は一緒に広場へ向かうことにした。  そして――――広場へ着き、辺りを見渡す。 だけど少女がいないということは、ここへ来て雰囲気を感じ取っただけで何となく分かっていた。  悠は遊んでいる子供たちをぼんやりと見つめながら、寂しそうな声で呟く。 「・・・今日も、いないね」 今日初めて悲しそうな表情を見せる彼に、リーナは一つ提案を持ちかけた。 「ねぇハルくん。 一緒に外へ、出てみない?」 「外? 屋上のこと?」 「ううん。 病院の入り口から、外へ出るの。 この病院の周りにはね、小さなお散歩コースがあるんだって」 「え、そうなの?」 「うん。 そこには、たくさんのお花が咲いているらしいの。 私行ったことがないから、一緒に行ってみない?」 「行きたい!」 そう言うと、悠は笑顔で承諾してくれた。 悠と初めて出る、外の景色。 自動ドアが開かれると、一気に心地のいい風が舞い込んできた。  その暖かさを立ち止まって身に染みて感じていると、その間に悠は一人先へと進んでしまう。 「わぁ! 外だ! 気持ちいいなぁー!」 楽しいことは意欲だけでなく行動力までも高まり、動きが早くなるのだろうか。 リハビリ時よりも少し速いスピードで、彼は散歩道を進んでいく。 リーナもそんな悠の様子を見て追いかけようとするが、いつにも増して日差しが強いことに気付き少し目を細めその場に立ち止まった。 「ハルくん」 「うん?」 悠は好きな花を見つけたのか、一つの場所に座り込みずっと咲いているものを眺めている。 これを機に一気に距離を縮ませ、彼の隣に立った。  そしてバッグから帽子を取り出し、悠の頭の上に乗せてあげる。 ふと視界が狭まったことに彼は帽子をツバをくい、と持ち上げながらリーナのことを見上げてきた。 「これは?」 「貸してあげる」 「お姉さんの? いいよ、僕は。 僕よりお姉さんが使って」 そう言って帽子を外そうとするところを、リーナは防ぐ。 だがこれは女性用のハットなので、悠が躊躇うのは無理もない。  だけどここは我慢してでも、悠の体調を気遣い使ってほしかった。 「いいの、ハルくんが被ってて。 可愛くて、凄く似合っているよ」 「・・・もう。 いつか僕が、お姉さんにそのようなことをしてあげたいな」 「え?」 最後の発言が小声だったため上手く聞き取れず聞き返すが、彼は小さく微笑んだだけでそのまま先へと進んでしまった。 すると今度は、悠は再び一つのところで立ち止まる。 「お姉さん! ブランコがあるよ!」 「本当だね。 乗る?」 「んー・・・。 僕、一度も乗ったことがないからなぁ・・・」 ベンチの横に、二つのブランコが設置されていた。  だがここは病院のため、安全に使用できるよう座るところはベビーシートのような形をしており、安全バーのようなベルトまでも用意されている。 「私が押してあげるよ?」 「んー・・・。 分かった! じゃあ押すのは、お姉さんに任す! 優しくしてね?」 「もちろん」 悠は身体が弱いため、あまり遊具で遊んだことはなかったのだろう。 そのため初めてブランコに乗った時の様子が、とても初々しかった。 「わぁ! 風が凄い来るよ! 気持ちいいなぁー。 このままどこかへ飛んでいきそうな勢い! ・・・というより僕、高い景色好きだなぁ」 ブランコが上へ持ち上がるたびに、悠の背を少し追い越すため普段見ない景色に感動しているようだ。  「またお気に入りが一つ増えたかも。 明日もここへ来ようね?」 「いいよ」 悠がこのまま笑顔でいられるようにと、リーナは心から願っていた。 そして、時間は過ぎていき――――時刻は22時。 夕食を終えた後も、二人は朝とは違うゲームをして過ごしていた。 その時もずっと、悠は笑顔を見せてくれる。 だけどふと時計の方へ目をやると、少し残念そうな表情をして呟いた。 「あー・・・。 もうこんな時間かぁ」 「そろそろ寝る?」 「うん・・・。 そうだね」 その返事を聞くと、リーナは今遊んでいたゲームを手際よく片付け始める。  「ねぇハルくん、このゲームはこの病室へ置いていってもいいかな?」 「もちろんだよ。 毎日持ち運ぶの、大変でしょ?」 「ありがとう」 そして棚の中にゲームをしまい込むリーナを見て、悠は優しい口調でそっと礼を口にした。 「・・・お姉さん。 今日は、ありがとうね」 「え?」 「僕のために、色々考えてくれて。 ・・・僕に、気を遣ってくれたんでしょ?」 「・・・そんなことないよ」 リーナは意中を当てられ少し返しが詰まってしまうも、悠は笑って続きの言葉を紡ぎ出す。 「もう、お姉さんは素直じゃないなぁ。 でも本当、嬉しかったよ。 そのお姉さんの優しさが。 それに、今日はとても楽しかった。 また明日も、一緒に遊ぼうね」 「ッ、ハルくん・・・。 うん。 私も楽しかったよ。 そう言ってくれてありがとう、ハルくん」 素直な気持ちを言ってくれた彼に、リーナも笑顔を返した。 自分が変わると、悠も変わってくれた。 本当にタクミの言う通りにすると、何でもその通りになってしまう。 そのことを改めて実感し、タクミのことをより信じるようになった。
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