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……聞こえないよ。
そう言ったはずの私の声も聞こえない。
きっと彼女にも聞こえていないのだろう。
ずっと唇は動いたままだ。
そして、モザイクがかかったかのように目が見えない。
……詩(ウタ)。
彼女の名前も何度──何夜、見た事か。
……詩、詩。
私、寂しいよ。
……時間切れか。
いつもこうだ。
聞き出そうとして噴水の水に足をつけた時、この世界が歪む。
白い髪をした人達は最初からいなかったかのように消え、雫も傘も同じように消える。
真っ白と真っ黒が混ざったような黒い色が滲んでくる。
水の中に落とされたインクのようにぐにゃりぐにゃりと染みていく。
……詩、何を言いたいの……。
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