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にわかには信じがたかった。
最初は綾子さんのことを知る目的で大和くんに近づいたけど、彼とは不思議とウマが合った。
だからその頃にはもう、大和くんを友達とか兄貴みたいな存在だと思うようになっていたんだ。
でも、アザは新しいものと古くて消えかかってるものが混ざっていて、絶対に転んだりしてできるものには見えなかった。
絶対にDVだ。
頭にカッと血が上って、今すぐ大和くんを呼び出してぶん殴ってやろうかと思った。
けど、結局できなかった。
果たして、大和くんを責める権利なんて俺にあるんだろうか。
だって、俺っていう他人の子供を育ててくれている彼に、俺が何を言える?
それに、とんでもない不貞を働いた綾子さんを大和くんがどんなに憎んでいるかは、もう嫌というほど聞かされていたから。
でもだからと言って、このまま見過ごせるわけじゃない。
綾子さんは一度で満足するのかと思ったのに、その後も定期的に俺を誘った……というか、半ば脅迫だった。
「これ。響子ちゃんにバラされたくなかったら、ね」
あろうことか、俺との行為をスマホで録画していたのだ。
まあ、響子にバラすとか響子に危害を加えるとか、そんなことへの危惧は二の次で。
俺は純粋に、すっかり壊れた綾子さんのことが、心配でたまらなくなった。
結婚後もホストに通っていたのも、こんな暴挙に出たのも、大和くんとの結婚生活が辛くて仕方ないからなんじゃないかって、急に気がついた。
会う度にまた、新しいアザ。
……俺はやっぱり、何が何でも大和くんとの結婚を止めるべきだったんだ。
それをしないくせに、避妊もしなかったなんて俺は最低だ。
子供さえできなければ、綾子さんが大和くんに殴られることなんてなかったのに。
自分が苦しいからって、あんなに冷たくしなきゃよかった。
突き放すためとはいえ、響子との結婚のことなんて、話さなきゃよかった。
あとで聞いた、響子と綾子さんが高校の同級生だったなんてことも、綾子さんが響子に強烈な憧れを抱いてたことも、俺にはどうすることもできない偶然だけど……。
それでも、綾子さんが今幸せじゃないのは、結局全部俺のせいだ。
俺がバカでガキで覚悟が足りなかったから。
だから、綾子さんが望むことには応えてあげよう、それで気が晴れるならいいと思った。
問題はDVだけど、どうしたら止められるんだろうか。
俺はない頭を絞りに絞って、いろいろと計画を練った。
まずひとつめにしたのは、大和くんに「綾子さんに脅されて不倫させられてるんだけど」と打ち明けること。
これはその後の策のために、俺と綾子さんが今も肉体関係にあることを大和くんに知ってもらう必要があったからだ。
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