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17. 巨影現る
隆義たちが金輪島に展開した「覇の国」の軍勢と交戦している最中──。
占領された似島の沖合に、一隻の巨大な貨物船が航行していた。
「船長、信号は切ってあるか?」
「あぁ。流石にここまで来て、沿岸警備隊に追いかけられちゃたまらねぇからな」
日本近海の海上でAIS(自動船舶識別装置)を含む全ての信号を切って姿を消したこの船は、広島港を目指している。
船長の隣には、赤いベレー帽を被った軍服の黒人が立ち、背中にスナイパーライフルを背負っているのが解った。
「積み荷にあんなモンを積んでるんだ。バレたらタダじゃ済まねぇ」
「しかし長い旅だったぜ。西アフリカを出て、南米で寄り道して、三ヶ月かけてようやくだ」
「で、あんたのクライアントはちゃんと金を払ってくれるんだよな?」
「心配するな」
船橋から見下ろす大量のコンテナの上には、銃を持った少年たちの姿がある。
ただし、全員が色の黒い黒人で──彼らは皆、少年兵である。
年齢もバラバラで、下は五歳ぐらい、上は十八歳は越えないであろう、あどけなさの残る顔つきだが、その表情はまるで昆虫のように変わらない無表情だ。
一部のコンテナは、敵が来てもすぐに迎撃できるよう豪攻車や他のロボットが隠れている物があり、他にも違法とも言える禁制品の数々が、ここに積まれていた。
「ここまで来りゃ、もうすぐだぜ……無線を貸してくれ」
「おう、陸の連中と連絡するのかい?」
ベレー帽の男が無線機を操作する。合わされたチャンネルは、覇の国であの騒がしい無線で使用されている周波数帯だ。
「はーるばる来てやったぜハーコダッテー!! はっはー!」
[うるせー! てめぇ、テイラーだな! 西アフリカからよく来やがった!]
「チュスも元気そうじゃねぇか! ホセ中尉殿は元気にしてんのか!?」
[あー、中尉も国王付きの仕事を元気にやってんよ。ヒロシマを乗っ取ってやったからな!]
「そりゃそうと、もう岸が見える位置だ。どこに接岸すりゃいい?」
すると船橋の前に、すぐにヘリが飛んできた。
チュスたちはドアを開けて下の少年兵たちに手を振ると──
[先導する。ついて来い]
「オーケーだ。船長、あのヘリの後を追ってくれ。停泊場所に案内してくれるとよ」
「へいへい」
──貨物船を先導する為、ゆっくりと前へ進み始めた。
彼らは「覇の国」の増援。戦況は再び動こうとしている。
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