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しかし、前島は思ったより全然焦っておらず、ゆっくりと歩いてホテルから誰かと出てくる。
「はは。悪い悪い。実はさ、俺が一人で三階に上がった時、なんか地元の人がたむろってたから声をかけたんだ。この人は佐藤さん。歴とした人間だよ」
話を聞くと、佐藤というは地元の不良で、廃墟になったホテルをしょっちゅうたまり場にして集まっているとのことだった。
今日も仲間たちとホテルにたむろしてて、俺らが肝試しに来たことに気付いて息をひそめていたらしい。
そして、前島が一人で訪れた際に脅かそうとしたのだが、1人で来ている様子を見て度胸がある奴だと思って意気投合し、仲良くなったとのことだ。
その後は前島が戻る際にこっそりとついてきて、人数が増えてるという話をして俺たちを脅かそうとしていたらしい。
「なんだよ前島~。お前性格悪すぎ」
「はは。悪かったって。でも俺を一人で行かせるなんてお前らも薄情だったろ?」
「まぁそうだけどさ。ってか佐藤さんのお友達もホテルに来てるんですか?」
俺がそう聞くと、佐藤さんの友達も3人ほどホテルからぞろぞろと出てきた。
面白そうに佐藤さんが口を開く。
「いきなり驚かしちゃって悪かったね。ってか人数多いって言ったときの焦り方が面白かったよ」
「佐藤さんも性格悪いっすねぇ~」
「まぁ本当はずっと息を潜めながら隠れて、お前らが三階に来た時に突然バッと出てきて驚かそうと思ったんだよ。人数増えてる作戦を考えたのは前島くんだから」
俺は佐藤さんのその言葉を聞いて、少し疑問に思うことがあった。
「え? 今、ずっと息を潜めながら隠れてたって言ってましたけど、俺らが来た後に『ぉぉーぃ……』って誰かを呼んだりしませんでした?」
「は? そんなん誰もしゃべってないけど? お前らもしゃべってないよな?」
佐藤さんの友達の人たちも、誰一人しゃべっていないという。さらに、誰かを呼ぶ声などどこからも聞こえなかったとまで言うのだ。こればかりは冗談とかではなく本当だという。
それを聞いて俺たちも佐藤さんたちもしばらく固まり、急に怖くなってそれぞれ帰ることにした。
その後、俺は肝試しをやめるようになり、佐藤さんたちもあのホテルをたまり場にするのはやめたようだ。
結局、あの声はなんだったのか……それは今でも分かっていない。
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