不忍池小噺

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どのような経緯をへて、ふたりが恋仲となり この池で逢瀬を重ねることとなったのかは 想像することでしか補えませぬが 例えば、蓮を愛でる人びとの 頭の影に、背の影に見ゆるその人の ほんの一瞬見せた表情、仕草。 (ある)いは 最初はまったく気にしていなかったというのに 連れ立ちの「あれ、あそこに仇家の者が」 そのひと言で吸い付けられたように目の離せなくなること 経験の多い皆さまならば 如何に些細なことがきっかけで心に華が咲き乱れるか ご存知のことだと思われます。 しかし、因縁曰く付きの相手で御座います。 それも運悪く、ふたりとも地元では権勢のある家の者。 当然、周りの目というものがありますれば。 表立っては触れられぬひと。 垣間見ることしか許されぬひと。 あの恋しい姿を せめて、幻でも。ひと目でもと想いは募り そうして、ある晩とうとう堪えきれずに 昼間の面影を求めて、蓮池まで来てしまった。 静かに風そよぐ、夏の夜。 月光に照らされて蓮の葉がつやつやと まるで月の盆が浮いているように、大変麗しゅう御座います。 そこに 逢いたいと願っていた相手が 同じ想いを抱えて佇んでいたとしたら。 そんなふうに想像を巡らせますと とてもロマンティックだとは思いませぬか?
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