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わざと橋板を抜いたのは
まさか死に至らしめようなどという意図まではなく
ぽっかり空いた橋板に足を踏み入れ
あわや池へと転落しそうになった──
こんな怖ろしい思いはもう御免──と
それを機にふたりの仲が疎遠になればという
淡い期待からのものであったとしたら?
しかし、運の悪いことに
感応丸は池へと落ち
そのまま帰らぬ人となりました。
もっと悪いことには
柳の前の目の前でそうなってしまった、ということ。
考えてもみてください。
まだ若干十五の娘。
家人に気取られることなく家を抜け出すとなれば
当然、灯りの類は持てもせず
かといって、目指すは池のほとり。
街灯などはない時代です。
頼りになるのは月の光のみ。
あとは墨で染めたかのような漆黒が、辺り一帯に続くばかり。
見知った景色も、昼と夜ではまったく異なります。
どこからが空で、どこまでが道なのか。
どこにどんな輩が潜み、いつどんな獣が飛び出してくるか。
風に煽られる木立や葉擦れの
なんと恐ろしく聞こえることでしょう。
それをたったひとり、たった十五の娘が
男恋しさだけを胸に、暗闇を駆けていくのです。
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