不忍池小噺

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いえいえ、怖がらせるつもりなど毛頭御座いません。 それに、皆さまもご存知の通り 蓮華座とも呼ばれますように お釈迦様の足下には必ず蓮の台座が描かれるほど 蓮は仏教と縁の深い花で御座いますし。 泥水から真っ直ぐに天に向かって立ち上がる姿。 そこから大きく花を付ける様は なるほど、たしかに 苦境や苦難こそが悟りへの道となる、との説法を 体現しているかのようであります。 だとするならば ふたりが死したこの池に 今もこんなにも見事な蓮が咲くのは なんともいわれぬ法の妙。 結ばれ得なかった無念が ともすれば悲しみが怨みにさえ変わるかもしれぬ情念が しかし、それでも美しく浄土へと還る……。 昇華──という言葉が御座いますな。 まったく語源や意味は異なりましょうが わたくしはこの言葉を目にすると 蓮の花が真っすぐ天へと伸びる姿を思い浮かべるのです。 たしかに、悲劇でありました。 互いに想いながらも報われぬ、悲恋でありました。 それでも、一面に咲く蓮のように このふたりもそうであれば──と願わずにはいられませぬ。 image=511553190.jpg
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