朝比奈一心は一生勝てない(短編)

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 首都圏の12月に雪が降るというのも珍しくて、いつもよりも足数多く、歩幅小さく歩く大学への道。降り積もる白い絨毯……と言うには汚れているけれど、車だらけのこの都会で、ビルに囲まれたこの景色に流れる雪が、なんだか好きだった。 「ふぅ、時間は5分前か……」  渋谷駅ハチ公前で、流れていく人混みをボーっと見渡しながら、僕はあの世界に思いを馳せる。  此処数年はずっと、あの『アルヴァーナ』での5年間で得た何もかもが今も鮮明に思い出せるのだから、僕も結局、あの世界に未練を残していのだろうと思う。  僕、朝比奈 一心とクラスメイト達は、あの剣と魔法の異世界に巻き込まれ、様々な経験をして帰って来た。僕達は望んでこの世界に帰って来たが、僕自身の罪は未だ心の中で消える事は無い。   「一心!!」 「……やぁ、由衣」 「やっふ~~♪」  だが、結果は今現在どうにかやっていけている。 ―――――10年前……  光が治まって見渡せば、そこは僕等の学び舎で、そこには『全員』が揃ってキョトンとした顔で立っていた。 「……帰って、来た?」 「そ、その様ですな」 「お……おお」 「「「やったぁぁぁあああああッッ!!!!!」」」  時間はホームルームにも関わらず、教室は喜びの声で埋め尽くされた。隣のクラスの人達が何事かと覗いて来たりしていたが気にもしない。向こうに残った者達の忘れ形見も居たが、同じ様に涙を流して喜んでいる。  そして僕は、そんな中で眼が覚めた。
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