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「……ここは?」
「あ、朝比奈君!!眼が覚めたんですね!!」
「おお!起きよった!!」
「あざひ”な”く”~~~ん”!!!」
「……皆居る、のか」
僕が邪神ルイナに身体を乗っ取られている間に起こっていた事の数々は、由衣や歩、万理奈が全て教えてくれた。その上で……僕は自分が許せなくなった。
(結局僕はクレシオンの玩具から抜け出せず、全てをあの妖精に持ってかれた……か)
ただ帰りたかった。この世界で不安を抱え、理不尽な運命に抗い涙を流したクラスメイト達を帰してやりたかった。その代わりにした事が、あの世界の全ての人間を、全ての世界を滅ぼす切っ掛け作りだったなんて、どうしようも無く糞野郎だ。
にしても……なんとも言い難いな。全くもって実感が沸かない。
そして皆が未だ興奮冷めやらぬ中、やっとその興奮を止めてくれる者が現れる。
「お前等ぁ!!ガキじゃあるまいし、席につかんかぁッ!!!」
「「「体育のオノゴリッッ!!!」」」
「全員でその呼び名は止めろ泣くぞ!!?」
誰もが放課後になったと同時に一直線に家に帰った。母に、父に、もしくはそのどちらにも、祖母や祖父に、弟妹、姉兄と、自分の家族に泣きついて喜ぶクラスメイト達の姿がそこにはあった。勿論泣いている理由など言える訳も無く。全員がその理由については口を噤んだ。ただ親の料理でまた大号泣する姿は、大いに困惑させた事だろう。
だが、1人だけその恩恵を受けられない者が居た。
「ふぅ、ただいま……っと」
返って来ない「お帰り」という言葉を待つ筈も無く、たった1人で住むアパートの部屋に帰って来た朝比奈は、懐かしさと共に言い様の無い違和感を自身に感じながら日常へと帰還する。
彼は孤児だった。理由は分からないが、両親に捨てられ保護された。名前は条例によって他人の付けた名。彼には自信を形成すべき何もかもが最初から無い。幸い孤児院に置かれ、人として最低限の教育だけはさせて貰っただけの人間。
そして高校生となったと同時に孤児院を出てアパート暮らしへ。以降は勉学とバイトを両立しながら、人並みの学園生活を送っていた。
その朝比奈が、人から受けた愛情を、親の愛を知らない彼が異世界に召喚される前。クレシオンによる理不尽な説明がされている時に聞いてしまったのだ。
――――助けてお母さん、お父さん。
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