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人に頼るという事をしなかった彼にとって、その助けを求める声の意味が分からなかった。親とはそんなにも強い存在なのだろうか?こんなどうしようもない展開の中で、助けを求めるべき相手なのだろうか?と。
それは正解であり不正解。彼等はただ無意識に、最も自身を愛してくれていた存在に手を伸ばしているに過ぎない。幼き頃、その声に最も応えてくれていた存在を求めていたに過ぎない。
ただ、それは、朝比奈の心に1つの波を起こした。
――――――……助けよう。皆全員、助けよう。
愛なんて不確かな物も、恋なんて眼に見えない物も。朝比奈にしてみれば等しく『無い』物だった。だが彼には渇望があった。もしも、そんな物が自分の中にもあるならばと。
『朝比奈 一心』という『個』は証明したかった。自分の『人間性』を。
そして、自分にもきっとそういった『愛』はあるのだと。綺麗事に現を抜かせる者なのだと。
そうして4年。アイドリーと出会い更に1年。あの瞬間まで自分を偽り続けていた男は、自身が取るに足らない路傍の石であった事を再確認してしまった。自身の捧げて来た『人間性』の全てが、あの邪神より質の悪い神によって全否定されたのだ。
(本当に……僕は駄目な奴だったなぁ)
本当は、ルイナに呑まれた時、あのまま死んでいても良かった。否、こんな人間は死んだ方が遥かに世の中の為になるだろうとさえ思った。幾らクラスメイトを元の世界に返したい一心で行動していたとは言え、やっている事は残虐非道である。当然、今度クラスメイト達と仲良くやっていける自信など欠片も無かった。
そう思えば、本当に1人となった彼の行動は早かった。こんな性格破綻者が生きている理由など、無いと断ずる。
「ロープは……ビニル紐を重ねるか。遺書……を書く相手は居ないし、貯めたお金は孤児院に寄付すれば良いか。後は……」
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