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思い描くは、最後まで自分を取り戻そうと頑張ってくれていたあの3人の顔。最後まで朝比奈を信じ、慕い続けてくれた女達。その想いに応えられないのがもどかしくてしょうがなかったのは真実。だがそれが『愛』であるかは最後まで分からなかった。
だが自分が死んだとなれば、きっと悲しむのだろう。それだけが心残りだと思う。死ぬ事に最早恐怖など無かったが、あの世があるのだと思うと、その事で咎められるのが少なからず怖かった。
そしてバックを放り捨てビニル紐に手を取ろうとした瞬間。
「ふぎゃっ」
床に落ちたバックの中で、そんな何かが潰れた時の声が聞こえた気がした……それは確かに彼の耳に入ってしまった。
「……」
急速に、静かに、朝比奈は振り返る。そんな事、有り得ないと首を横に振る。此処は『彼等の世界』なのだ。此処には奇跡も魔法も無い。あるのは虚無に等しい機械的な社会のみ。そんな世界で、こんな安アパートの中で、そんな事が起こる訳が無い。
だがやりかねない。あの連中なら何も可笑しくは無い。
もぞもぞと動くバックに手を掛け、恐る恐る彼は……チャックを開けた。
「あや~~?ここいずこ~~?」
「……嘘だろ」
「あ~~え~と……そう、ひゅーま~~ん♪」
「嘘だろぉ……」
考えうる限り最悪の、彼にとってこの上無く不味い事が起こってしまった。
「何故此処に妖精がっ!?」
「お呼びとなあらば即参上なの~~♪」
そのポーズも、実に堂に入っていた。
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