第二章  父からの贈り物

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第二章  父からの贈り物

 達也の家を出た千佳は、そのまま家の中には入ろうとせず、縁側に腰をかけて両足をぶらつかせながら空を見ていた。千佳は夜空を見るのが好きだった。静かな宵に、虫の競うような鳴き声が絶え間なく千佳の耳に入ってきた。星は満天を覆っていて、誇らしげにその身を輝かせていた。千佳はただ静かに、宇宙の神秘を見つめていた。しかし、やがて襲ってくる千佳への運命のいたずらを、今この時この星たちは気づいていたのか。この瞬間、千佳の気持ちは、ただ、訳の分からない達也への、複雑な思いでいっぱいだった。今、達也と別れたばかりなのに、もう会いたくなっている。「この気持ちはいったい何?」と、考えてもわからないもどかしさに、そうつぶやくしかない千佳であった。千佳は中学生になってから毎日欠かさずに日記帳を書いていたが、ここにきて、その内容にも明らかな変化が現れていた。今までの千佳の日記帳には、「苦しみ」や「悲しみ」の文字はなかっ た     
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