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それから思い付いて、私は試しに、近くの川べりに向かった。川の水はこのあたりは比較的澄んでいて、文字通りの水色で喩えるのが相応しいくらいの水なのだ。
す、す、とその川に向かって筆を向ける。
じゅ、と筆が重みを持つ。
紙にそれをそのまま滑らせると――川の水の色が、そのまま表現されたような絶妙の青が現れた。それを見て、私は不思議とこんな確信を持った。
これは、きっとあらゆる青を表現できる筆なのだ、と。
祖父の青の表現は、繊細すぎるくらいに美しかった。
それも、この筆のお陰なのだとしたら、とても凄いことだ。魔法の筆、まったくその言葉通りの代物ではないか。
綺麗な青を、たくさん描いてみたい。
私はどきどきしながら、世の中に散らばる様々な青を、魔法の筆で吸い上げ、そして紙に落としたいと思った。
それができたら、どんなにか素敵だろう。
私は胸を高鳴らせながら、筆をぎゅっと握りしめた。
――筆の青は、まるで衰えを知らなかった。
私が望めば望むだけ、世界中の青を拾い上げた。
けれど、私はどんどん不安になっていった。……だって、これらの青は、本当の青だけれど、私の本当ではないのだもの。
私が自分で作り上げた青ではないのだもの。
……もしかしたら祖父も、同じことを考えて画家の道を敢えて歩まなかったのかも知れない。あくまで想像でしかないけれど。
私はそれ以降、青の筆をとるのをやめた。
けれどあの青を、美しかった青をどうしても再現したくて、私はいまも絵を描いている――。
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