147人が本棚に入れています
本棚に追加
「そういえば、この前、あなたと同じ年ぐらいの可愛い子をここで見かけたわ。もしかして、彼女さんかしら?」
内心どきっとした。
一瞬、結のことかと思ったが、だったら、そんな言い方はしないだろうと思い直した。
麻衣のことだろう。
すぐに彼女じゃないと、否定しようとしたが、幼なじみとはいえども、付き合ってもないのに泊まりに来るのはおかしいだろうと思い、言葉を濁すことにした。
「まあ、そうですね」
「やっぱり、そうなのね。最近賑やかで楽しそうだものね」
「ごめんなさい。うるさかったですか?」
「いえ、そういう意味じゃないの。気にしないで」
そう言うと、結の母親は会釈をして、先に階段を昇っていった。
その後ろ姿を目で追いながら、もしかしたら、彼女には、結の居場所がばれているのかもしれないと思った。
彼女が家に入る音にはっとして、僕も階段を昇った。
もし彼女が気づいていたとしたら、彼女は結が僕の家にいると知りながら、気づかぬふりをしていることになる。
帰りたくない結の気持ちを尊重しているのだろうか。
それでも、普通なら連れ戻そうとするだろう。
面識のない隣に住んでいる大学生の家に自分の大事な娘がいるのだから。
それなのに、なぜ、そうしないのか。
初めて僕の家に来た時、結がなぜか僕のことを信頼してくれていたことを思い出す。
結の母親も理由はわからないが、僕のことを信用しているのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!