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僕は大学生になるタイミングで独り暮らしを始めた。このアパートに住み始め、もうすぐ一年になる。 初めは戸惑うことが多かった独り暮らしだったが、今では少し慣れてきたように感じる。 しかし、ここで暮らしていて、最近気になっていることがある。 このアパートは家賃が安いのはありがたいのだが、隣の家との壁が薄い。 ここに越してきてからは、あまり気にならなかったが、一ヶ月ほど前からだろうか。頻繁に隣の部屋から罵声や悲鳴といったものが聞こえてくるようになった。 今日も自室で何となく見ていたテレビもつまらなくなってきたし、もう寝てしまおうかとテレビのリモコンを取ろうとした時だった。 男性の罵声から始まり、女性の悲鳴、鈍く響く大きな物音。 さっきから、男性が何を言っているかは分からないが、女性が必死にもうやめてと叫んでいるのは聞き取れる。 今日こそは様子を見に行った方がいいだろうか。 耳を塞ぎたくなるような怒鳴り声と悲鳴を聞くたびに何度そう思ったことか分からない。 隣人といえども、元々近所付き合いが薄く、時々アパートの廊下で顔を合わせる程度だが、隣には四十代ぐらいの夫婦と中学生ぐらいの女の子が住んでいるはずだ。 いつもなら暫くすると静かになるので、ただの親子喧嘩か夫婦喧嘩かと軽く考えていたのだが、今日は違うようだ。荒げ声がますます激しくなっている気がする。 隣に住んでいるとは言えども、特に会話もしたことがない隣人宅へ急に押し掛けることに気乗りはしないながらも何かあってからでは遅いと思い直し、僕は重い腰を上げた。 自宅の玄関のドアを開け、廊下を歩いた。 足取りはなかなか進まなかったが、小さなアパートなので、すぐに隣人宅へ着いてしまう。 まず何と声をかけようか考えながら、僕は隣の家の呼び鈴を押そうとした。
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