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それからも身が入らないまま、今日の講義を終えた。
一緒に講義を受けていた友人たちと別れ、帰路につく。
今は夏なので日が沈むのが遅くなるが、アパートに着いた頃にはもう夕暮れ時だった。
玄関のドアを開けた瞬間、香ばしい良い匂いがした。
この匂いはカレーだろうか。
「お帰りなさい」
真っ直ぐにリビングへ向かうと、エプロン姿の結が出迎えてくれた。
僕の家には結が着ているようなエプロンはなかったから、結が自分の家から持ってきたのかもしれない。
「ただいま。晩ご飯はカレーかな?」
「はい。冷蔵庫にカレー粉を発見したので、今日はカレーにしてみました」
「麻衣がもうすぐ帰ってくると思うから、三人揃ってから食べようか」
「賛成です」
僕がリビングのソファーへリュックサックを下ろすと、結は目を輝かせて尋ねてきた。
「大学ってどんなところですか?」
「中学校よりは結構自由かな?校則とかも緩いし、自分が受けたい講義を選択できるから、今日みたいにお昼から大学に行くっていうのもできるよ」
「そんな感じなんですね。私もいつか通ってみたいな」
テーブルの片隅に中学校の教科書が置かれているのが目に入る。今日、僕が大学へ行っている間も結は勉強していたみたいだった。
「今から勉強すれば、結ならきっと良い大学に行けるよ」
「私、この前の成績散々だったんですよね。それでお父さんに怒られて、叩かれるようになって......」
結はそこまで告げて目を伏せた。唇を噛んでいた。父親にされたことを思い出しているようだった。
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