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その日は麻衣さんが夜勤で夕方頃にでかけ、お兄さんと二人で夕食を片付けた後、お兄さんは私の勉強を見てくれた。
お兄さんはとても教え方が上手だった。
普段は口数が少ないが、私の分からない場所を的確に分かりやすく教えてくれた。
私は特に数学が大の苦手だった。
一つの問題がなかなか解けない私にお兄さんは呆れることなく、熱心に優しく指導した。
数学は分からないことが分からないレベルで嫌いだったが、お兄さんに解説してもらうようになってから、今まで全く計算方法の検討もつかなかった問題が解けるようになると、何とも言えない喜びに駆られるようになった。
私は少しずつ、問題を解くのが、楽しいと思うようになっていた。
次の試験が楽しみになっていた。
問題集の切りが良いところで、お兄さんが休憩しようと言った。
私は伸びをした。
時計を見ると、勉強を始めてから二時間が経っていた。
集中力が切れた私がぼーっと時計を見つめていると、隣から声がした。
「良かったら、一緒にこれ見ない?」
お兄さんがリュックから取り出したのは、レンタルDVDの黒い袋だった。
彼が中身を開いて私に見せてくれた。
DVDは一昨年に話題になったホラー映画だった。
「麻衣はああ見えて怖がりだから、一緒に見れないんだよね。
結は平気?」
私はすぐさま頷いた。
麻衣さんがホラーが苦手だということに、私は内心驚いていた。
夜勤の病院なんて、麻衣さんは大丈夫なのだろうか。
彼女の仕事が無事に終わりますようにと心で小さく祈った。
「お母さんがホラー苦手で家だと見れないんです。実はどんな映画か気になってました」
「じゃあ、今から見ようか」
お兄さんは、テレビの下の棚に置いてあるDVDプレイヤーにDVDをセットした。
私は今まで取りかかっていた問題集を閉じ、筆記用具をペンケースへと閉まった。
暗い画面からDVDはスタートした。
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