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私は少し考えて、あることに気がついた。 お兄さんの家の居心地が良すぎて、自分の部屋が異質のように感じたのだ。 この部屋にいると、嫌でも思い出してしまう。 寝ようと布団に入っていたところを何度起こされたことか、分からない。 この部屋で数えきれないほど、パパに蹴られて、殴られた。 その記憶が甦るだけで、息が苦しくなる。 私は机の引き出しの中に入れていたレターセットを取り出した。 これは、小学生の頃、仲良くしていた友達が引っ越してしまい、手紙を送るために買ったものだ。 その友達とも手紙交換していたのは、始めだけで、二、三通やり取りして、すぐに返事が来なくなった。 きっと、新しい学校で友達ができて、私のことなんて、どうでもよくなったのだろう。 だから、せっかくお小遣いで買ったレターセットも全く使わず、いつの間にか、机の引き出しに追いやられてしまったのだ。 私はそれだけを手に取り、すぐに家を後にした。 ここに長居するのは、無理だった。 自分の家なのに、今は誰もいないのに、私は隣のお兄さんの家の方が息がしやすいのだ。 お兄さんの家に戻ると、少し家を空けただけなのに、どっと疲れが出た。 自分の家にいたのは、数分位だったのに、まるで、何時間もそこにいたように感じた。 私は持ってきたレターセットをリビングのテーブルの上に置いて、ソファーに横になった。 手紙を書くのは、少し休んでからにしようと思った。
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