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食べ終わり、食器を台所に片付けると、私は先程自分の部屋に取りに行ったレターセットをテーブルに置いた。 紗友里さんに手紙を書こうと思ったのだ。 上手く書ける自信は全くといっていいほどないが、それでもこのまま一人でうじうじ考え込んでいるよりもましな気がした。 お気に入りのボールペンを手に取ると、思ったよりも筆が進み、そのことに自分でも驚きながら、水玉模様の便箋に言葉を綴っていく。 私は本当は誰かに話を聞いてもらいたかったのかもしれない。 そのままどのくらい時間が経ったかわからないが、手紙を書き終え、便箋とお揃いの封筒に閉まった。 切手もレターセットに入れてあったので、それを貼った。 今なら誰も帰ってこない。 お兄さんも帰りは夕方になると言っていたし、麻衣さんは夜勤の後、お友達と用事があると言っていた。 幸いポストはアパートを出て、すぐのところにあるので、少しなら家を空けても大丈夫だ。 私は手紙を持って、立ち上がった。 椅子にかけてあったカーディガンを羽織り、玄関を開け、外に出た。 アパートの階段を降りるのも久しぶりだ。 夏休みになってから、私は出掛けておらず、強いて言えば、自分の家とお兄さんの家の行き来しかしていない。 要するにアパートから一歩も出ていないのだ。 今は夏休みなので、昼間は唸るような暑さが襲ってきて、階段を降りただけで、汗が滲んできた。 そのことに嫌気が差しながら、私は足早にポストへと向かった。 紗友里さんから返事は来ないかもしれない。 当たり前だ。 私だったら、知らない人から手紙が来て、返事を書こうとは思わないだろう。 それでも構わなかった。 それなら、それで私はもう一歩踏み出すしかないのだ。 いつまでもお兄さんのところにいるわけにはいかない。 再来月からは夏休みが終わり、学校が始まる。 それまでには覚悟を決め、何とかしないといけない。
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