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その日は夕方から雨が降っていた。 朝から大学に行き、午後から家の近所にあるコンビニのアルバイトを入れていた。 来週から試験期間に入るので、店長にお願いして、アルバイトのシフトを調整してもらっていた。 なので、次のシフトは一週間後だ。 今日は試験前の最後の出勤だった。 いつものように接客に追われ、夕方頃にはもうくたくたになった。 退勤間際にちょうど休憩していた店長に試験頑張れよと激励され、帰路についた。 僕には少し気がかりなことがあった。 試験の代わりにレポート提出の科目がいくつかあるのだが、それがまだ全然終わっていないのだ。 でも、今から必死にやれば何とかなりそうな量なので、どれから終わらせていこうか、頭の中でスケジュールを立てていく。 そんなことをしながら、アパートに着くと、ちょうど一階の入口のところに人影が見えた。 鞄をごそごそしていたので、恐らく鍵を探しているのだろう。 「こんばんは」 差していた傘をたたみ、後ろから挨拶をすると、同じアパートの住民らしき人物は振り向いた。 その顔を見てから、はっとした。 その顔に見覚えがあったからだ。 後ろ姿だと全く気づかなかったが、彼女は結の母親だった。 「こんばんは」 挨拶を返され、そのまま通り過ぎようかとも思ったが、立ち止まった。 「もしかして、鍵が見つからないんですか?」 彼女は僕に声をかけられたことに少し驚いていたが、頷いた。 「そうなの。確かこの辺に入れたはずなんだけど」 そう言って、鞄のポケットをごそごそするが、見当たらないみたいだった。 「お財布とか服のポケットとかにはないですか?」 「そうね」 僕の言葉に納得し、彼女は自分のズボンのポケットに手をやるが、なさそうだった。 鞄に入っているお財布を取り出し、チャックを開ける。 「あ!あったわ」 彼女は財布から鍵を取り出した。 「そういえば、つけていたキーホルダーが壊れて、なくさないようにと思って、財布に入れたのよ。忘れてたわ」 「見つかって、良かったですね」 二人で微笑み合う。 「本当にありがとう」 「いえ、僕は何も」
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